体験型マーケ×ブランド愛着の最前線2026

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80年代モールを丸ごと再現——FXの体験型プロモが示す『記憶の商品化』

2026年7月、FXがロサンゼルスのシャーマンオークス・ギャラリアというショッピングモールを1980年代仕様にフルリノベートした。目的は新シリーズ『The Shards』(ブレット・イーストン・エリスとライアン・マーフィーのコラボ作品)のプロモーション。Marketing Diveの報道によると、複数のブランドを巻き込んだコラボレーション形式で実施された。

ここで注目したいのは『ノスタルジア』の使い方だ。単に昔風のデザインを貼り付けるのではなく、実際に人が体を動かして80年代を『体験』できる空間を作った。これは感情記憶を直接刺激するアプローチで、SNSシェアを狙ったフォトスポットとは一線を画す。

体験型マーケティングの効果測定は依然として難しい部分があるが(ROIの定義は要確認:各社の自社レポートや Nielsen の体験型広告調査を参照されたい)、心理学的には『感情的符号化』という現象が働く。感情を伴う体験は記憶に強く刻まれ、ブランド想起率を高める。映像作品のプロモーションで世界観を物理空間に持ち込む手法は、Netflix の『Stranger Things』ポップアップや『Squid Game』体験イベントでも実証済みだ。

日本市場への示唆

  • 商業施設との共同プロモーションは、集客コストを分散させながら世界観の密度を上げられる
  • 複数ブランドをコラボさせる設計は、それぞれのファン層を相互送客できる点で費用対効果が高い
  • 『昭和レトロ』ブームが続く国内市場では、時代考証の精度がSNS評価を大きく左右する

実は、このアプローチの本質は『コンテンツを場所に変換する』ことだと個人的には解釈している。ストリーミング時代、視聴者はスクリーンの前に座る前からそのIPを『体で知っている』状態になる。これは購買意欲の醸成というより、コミュニティへの参入儀礼に近い。


ヒルトンCMOが言い切った——ブランドマーケは『非合理な愛着の事業』

ヒルトンのグローバルCMO、マーク・ワインスタイン氏がMarketing Diveのインタビューで語った言葉が刺さる。原文では『irrational affinity business』という表現を使っている。

訳すなら『非合理な愛着ビジネス』。合理性で選ばれるホテルなんてない、ということだ。

同氏が現在力を入れているのは3つの柱——クリエイター活用、AI、そしてロイヤリティプログラムだ。この組み合わせは一見バラバラに見えるが、実は『パーソナルな接点を増やしながら、個別体験を最適化し、離脱を防ぐ』という一本の戦略軸でつながっている。

数字で見ると、ヒルトン・オナーズ(同社のロイヤリティプログラム)の会員数は2025年末時点で1億8000万人超(要確認:ヒルトン公式IRを参照)。これだけのファーストパーティデータがあれば、AIによるパーソナライゼーションの精度は段違いだ。クッキー廃止後の世界でこの資産がいかに強力かは、言うまでもない。

クリエイター活用については、単なるインフルエンサーPRではなくコンテンツの『共同制作者』として位置づけている点がポイント。クリエイターがブランドの代弁者になるのではなく、クリエイター自身の旅行体験の文脈にヒルトンが自然に登場する形を目指しているという。

これはZ世代・ミレニアル世代が求める『真正性』への応答だ。広告臭のしないコンテンツ。でも実際には緻密にデザインされている。その矛盾を成立させるのがクリエイターとのパートナーシップだ。

実践的に考えると

  • ロイヤリティデータ+AIの組み合わせは、大手だけの話ではない。サブスクモデルや会員制を持つ中堅ブランドでも設計できる
  • クリエイターを『媒体』として使う発想を捨て、『共同制作者』として設計するとコンテンツの質が変わる
  • 『非合理な愛着』を作るには、機能訴求だけでは足りない。どんな感情記憶を残せるか、が問いになる

ポパイズがエージェンシーを刷新——ブランド一貫性を取り戻す戦略的な意思決定

Marketing Diveによると、ポパイズがU.S.クリエイティブ業務をMcKinneyからAnomaly(アノマリー)に切り替えた。ブランド側は『audacious, resonant work(大胆で共鳴するクリエイティブ)』を理由として挙げている。

エージェンシーの交代は、マーケター視点で見ると単なる代理店変更ではない。ブランドの現状認識の表れだ。『一貫性が欠けている』と判断した時点で、内部コミュニケーションやガイドライン整備ではなく外部パートナーのリセットを選んだ。

Anomaly はバドワイザー、アディダス、コカ・コーラなどのグローバルブランドを手がけてきた実績がある(要確認:Anomaly公式サイト参照)。大胆なコンセプトワークと文化的感度の高さが特徴とされており、ポパイズが目指す方向性と合致している可能性が高い。

日本のブランドマネージャーにとって参考になるのは、『ブランド一貫性の問題をどの段階でエージェンシー側に帰属させるか』というガバナンスの問いだ。クリエイティブブリーフが曖昧なまま代理店を変えても、同じことが繰り返される。エージェンシーリレーションを見直す前に、ブランドの内側で何が決まっていて何が決まっていないかを棚卸しするのが先決だ。


今週のアクション——3つの問いを自社に当てはめてみる

今週の3本を並べると、共通のテーマが浮かび上がる。感情、愛着、一貫性だ。デジタル計測が当たり前になった時代に、逆説的に『測りにくいもの』の価値が再評価されている。

自社のマーケティングに当てはめて考えてみてほしい問いを3つ残しておく:

  1. 自社のブランドは、ユーザーにどんな『感情記憶』を残しているか? 体験設計を振り返ってみると、意外と空白がある
  2. ロイヤリティデータをAIと組み合わせて使えているか? データを持っているのに眠らせているケースは多い
  3. エージェンシーやパートナーとの役割分担は明文化されているか? ブランド一貫性の問題は、たいてい設計の曖昧さから来る

出典:Marketing Dive – FX Sherman Oaks Galleria / Marketing Dive – Hilton CMO / Marketing Dive – Popeyes


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