はじめに
今週の米国マーケティングシーンで個人的に刺さったのは、数字じゃなくて『感情の扱い方』でした。ノスタルジア、バイラル、リアルトーク——どれも理屈より先に感情が動く。それを戦略に落とし込んでいるブランドが、ちゃんと長く生き残っている。順番に見ていきましょう。
重要ポイント1: Spanglerが証明した「懐かしさ」の経済価値
Dum Dumsというキャンディを知っていますか。日本ではなじみが薄いかもしれませんが、アメリカでは病院の待合室や銀行の窓口に置いてある、あの棒付きキャンディです。製造元のSpanglerは、このブランドを含む複数の『歴史ある菓子ブランド』を傘下に持ち、ノスタルジアを軸にした独自のポジションを確立しています。
Marketing Diveのインタビューで、VP of MarketingのEvan Brockが語ったのは、単純な懐古マーケティングではなく、『ストーリーのある歴史』を現代の感情インフラとして機能させるという発想です。
出典: Marketing Dive – How Dum Dums owner Spangler created a candy empire built on nostalgia
日本市場への示唆
- 資生堂・カルビー・グリコといった老舗ブランドが「昭和レトロ」文脈でSNSでバズる現象は、Spanglerと構造が同じ
- ノスタルジアは世代を問わず機能する——親世代の記憶が子世代の『知らないのに懐かしい』感覚を生む
- 歴史を持つブランドが持っている最大の資産は、実は『積み上がった感情の記憶』だという視点
ぶっちゃけ、長年続いているブランドほど自分たちの歴史を過小評価していることが多い。『古い』を『信頼の証』に言い換えるだけでも、ブランドの受け取られ方はかなり変わります。
重要ポイント2: Liberty MutualがやったこSE「ミスを資産化」する逆転の発想
2019年のCMで一般人が『Liberty Mutual』を『Liberty Biberty』と言い間違えた。それがインターネットミームになり、7年後の2026年に同社はそのミスをもとにした公式キャラクター『Liberty Biberty』を生み出しました。黄色いふわふわの人形キャラクター。
出典: Marketing Dive – Why Liberty Mutual turned a viral ad moment into a new brand character
これが面白いのは、バイラル瞬間を『一時的なネタ』として消費せず、『恒久的なブランド資産』に転換したという点です。7年間、インターネット上で生き続けたコンテンツを、正式にブランドの一部として吸収した。
ここから読み取れること
- バイラルは予測できないが、その後の対応は設計できる
- ユーザーが勝手に作り出したブランド文脈を『公式化』することで、コミュニティとの距離を縮められる
- キャラクター資産はロングテールで機能する——広告クリエイティブの一貫性と認知効率が上がる
日本でも、ユーザーが付けたあだ名や誤字を公式アカウントがノリで使い始めてファンとの距離が縮まる、みたいな事例は散見されます。Liberty Mutualはそれをキャラクタービジネスにまで昇華させた。スケールの違いはあれど、発想は輸入できる。
重要ポイント3: ZeviaとCardi B——「リアルトーク」を戦略にする
ゼロカロリー飲料ブランドのZeviaが、ラッパーのCardi Bを起用した過去最大規模のキャンペーンを展開。テーマは『refreshingly real(さわやかなほどリアル)』。Cardi Bの「フィルターなしで本音を言う」キャラクターと、ブランドの『人工甘味料ゼロ・成分が正直』というポジションを直結させた構造です。
出典: Marketing Dive – Zevia taps Cardi B to serve up real talk in biggest campaign to date
インフルエンサー起用の文脈でよく言われる『ブランド価値観との整合性』を、ここまでシンプルに体現した事例は少ない。『成分がリアル』と『トークがリアル』をかけ合わせた瞬間、キャンペーン全体に一貫したメッセージが通る。
Z世代・ミレニアル世代が「真正性」に敏感な理由は、過剰な広告表現に慣れすぎているから。磨かれすぎたメッセージより、少し荒削りでも本音に聞こえるトーンのほうが刺さる、という流れはこれからも続くでしょう。
重要ポイント4: Google Adsの「見逃した成長機会」可視化機能(ベータ)
少し毛色が変わりますが、運用型広告に関わる人には無視できないアップデートです。Google Adsのおすすめタブに、予算上限・入札単価の低さによって『取りこぼしているクリック・コンバージョン・売上の推定値』が表示される機能がベータ公開されました。
出典: Search Engine Land – Google Ads adds missed growth estimates to the Recommendations tab
これは便利な反面、注意も必要です。Googleのレコメンデーションは基本的に『予算を増やす方向』に誘導される傾向がある——これは要確認(各アカウントの実績データと照合してください)。数字があると意思決定の根拠になりやすいですが、機械的に従うのではなく、自社のROAS目標・LTV設計と照らし合わせて判断する姿勢が求められます。
広告運用担当者が今週やること
- 自社のGoogle Adsアカウントでベータ機能が展開されているか確認
- 表示された『見逃し推定額』を、過去の実績データと比較検証する
- レコメンデーション通りに動く前に、ビジネス側の優先度と照合する
まとめと今週のアクション
今週の4つの事例を並べてみると、一つの共通テーマが浮かび上がります。それは『本物らしさの設計』です。
Spanglerは歴史を、Liberty Mutualはミスを、ZeviaはCardi Bの口の悪さ(褒めてます)を、それぞれ『本物らしさの証拠』として活用している。作られた完璧さより、ちょっとしたガタつきのほうが信頼される時代、というのは米国だけの話じゃない。
今週の具体アクション3つ
- 自社ブランドの『歴史・失敗・ユーザー発のあだ名』をリストアップして、資産化できるものがないか棚卸しする
- インフルエンサー起用を検討している場合、起用理由を『フォロワー数』より『価値観の一致』で説明できるか自問する
- Google Adsの推奨タブを開いて、ベータ機能の有無と表示内容を確認する(ただし即実行は保留で)
次回も、米国の動きを日本の現場に引き寄せながら更新していきます。
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