ヘアケアが「プレステージ美容の王座」を奪った
2026年第1四半期、ちょっと見逃せないデータが出てきた。市場調査会社Circanaの最新レポートによると、プレステージ美容市場においてヘアケアの売上成長率が前年比10%増を記録し、7%成長にとどまったフレグランスを追い抜いたという。
長年、「香水こそプレステージ美容の花形」という空気があった。セレブコラボの香水が飛ぶように売れ、ブランドのステータスシンボルとして機能してきた時代がある。それが今、ヘアケアにその座を明け渡しつつある——これ、なかなか象徴的な転換点だと思う。
理由を一言で言えば「頭皮・髪への意識革命」だ。スキンケアで浸透した成分リテラシー(ナイアシンアミド、ペプチド、マイクロバイオームケアなど)が、そのままヘアケアへと横展開されている。消費者はもはや「いい香りのするシャンプー」では満足しない。頭皮環境を整える、毛髪タンパクを補修する、成分の配合比まで気にする——そういう層が確実に厚くなってきた。
出典:Beauty Independent – How Haircare Became Prestige Beauty’s Hottest Category
インディーブランドが牽引する「ヘアケアの高級化」
個人的に興味深いのは、この成長を牽引しているのが大手メガブランドだけではないという点だ。インディーブランドが「スカルプケア」「クリーン処方」「サステナブルパッケージ」をキーワードに、プレステージ市場に次々と参入してきている。
実際、ここ数年でD2C(直販)のヘアケアブランドが急増し、Sephora・Ulta Beautyのような小売チャネルへの採用率も上がっている。消費者が「どこで買うか」より「何が入っているか」を重視するようになった結果、成分・製法・ストーリーで差別化できるインディーが強い。
サステナブルパッケージについても触れておきたい。詰め替え対応のアルミボトル、バイオベースのチューブ、パームオイルフリー処方——こういった要素が購買決定に影響する消費者層がプレステージ市場では特に厚い。環境配慮とプレミアム感が両立するブランドが、次の5年で頭一つ抜ける可能性がある。
ユニリーバが「美容・ヘルス特化」に全振りする理由
少し視野を広げると、ユニリーバの戦略転換も見逃せない。同社の米国社長兼北米パーソナルケア責任者のHarrish Patel氏は「アメリカで急成長しているコホートと一緒に成長している」と発言。ユニリーバは美容・ヘルス領域への投資集中を鮮明にしている。
「マスブランドの会社がプレステージ寄りにシフト」という流れは、実は市場全体が高付加価値化していることの裏返しでもある。低価格帯のドラッグストア商品が苦戦し、ちょっと高くても「ちゃんとした成分・ちゃんとした処方」のものに消費者がお金を出す——この二極化は日本市場でも同様の流れが来るはずだ。
ユニリーバが特に注力しているのは、ウェルネスとビューティーの融合領域。ヘアケアで言えば「頭皮の健康=全身の健康」という文脈への投資が増えている(要確認:具体的なブランド・製品ラインは公式発表を参照のこと)。
出典:WWD – Inside Unilever’s Plan to Go All-in on Beauty and Health
2026年夏のヘアカットトレンドは「懐かしさ全開」
Allureが発表した2026年夏のヘアカットトレンドは、60年代のロングストレート、70年代のフェザーカット、80年代のウルフカット——と、ほぼ全部リバイバルで構成されている。
これ、単純なノスタルジーブームと片付けてはもったいない。SNS、特にTikTokでは「レトロスタイルの現代解釈」が熱狂的に拡散される傾向がある。昔の写真をリファレンスにしつつ、今のヘアケア技術・ツール(ダイソンのエアラップ然り)で再現する——という体験そのものがコンテンツになる時代だ。
ウルフカットは特に日本でも根強い人気があるが、80年代のそれとは微妙に異なる。今の解釈はより軽さとレイヤーを意識した「現代ウルフ」で、丸顔・面長など顔型を問わず調整しやすいという点でスタイリストからも評価が高い(個人的にも、去年から周囲でオーダーする人が増えた印象がある)。
K-Beautyの影響も無視できない。韓国発の「S字前髪」「センターパート」などが既に世界トレンドに組み込まれており、今年の欧米トレンドにも韓国スタイルのDNAが見える。J-Beautyの「引き算の美学」と合わせると、日本人のスタイリストにとってはむしろチャンスが大きい市場状況とも言える。
出典:Allure – This Summer’s Haircut Trends Are Major Throwbacks
サステナブルラグジュアリーという新しい文法
ロンドン・マウント・ストリートで開催されたサマーフェスティバルでは、デザイナーのWalid al Damirjiによるブランド「By Walid」が6日間のレジデンシーを実施。一点物のコート、ホームウェア、彫刻を展示し、サステナブルラグジュアリーを体現した。
美容と一見無関係に見えるが、「希少性×サステナビリティ×職人技」という価値観はビューティー市場にも直結している。使い捨て文化への反動として、「長く使えるもの・修理できるもの・ストーリーのあるもの」への需要が高まっている——これはスキンケアのガラスボトル回帰や、詰め替え式のラグジュアリーコスメが増えている流れと同根だ。
サンタロペのホテル・ビブロスも、1967年創業の名門ホテルがウェルネス施設とインテリアを刷新しているというニュースが出ている。「レガシーを更新する」という姿勢は、美容ブランドにとっても参考になる視点だろう。
出典:WWD – Mount Street Summer Festival Puts Sustainable Luxury Center Stage With By Walid
今週の視点整理
今週のニュースを横断して見ると、一つの大きな流れが見える。
- ヘアケア市場の高級化・成分リテラシー化が加速している
- インディーブランドとメガブランド(ユニリーバ)が同じ方向——ウェルネス×ビューティー融合——に向かっている
- トレンドはノスタルジーをまとっているが、その実態はテクノロジーとSNSで再解釈されたもの
- サステナブルとラグジュアリーは「対立」ではなく「共鳴」する時代になった
日本の美容業界やサロンビジネスにとっては、「頭皮ケア×成分提案×スタイルの現代解釈」という三点セットで顧客教育を進めることが、今後の差別化につながるはずだ。数字がそれを支持している。
情報は記事公開時点のものです。市場データ・ブランド情報は各社公式発表で最新情報をご確認ください。


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