はじめに
2026年7月、美容業界を眺めていると、ちょっと面白いことが重なった。『思えば美しくなれる』と主張するマニフェスト美容の台頭、1800万個以上売れたDIYラッシュブランドがSeuphoraに乗り込んでくるニュース、ニコール・キッドマンがウィンブルドンでさらっとトレンドを作ってしまうあの瞬間。バラバラに見えて、実はどれも『消費者の自己表現欲求がどこへ向かっているか』という同じ問いに繋がっている気がする。
今週はその3つを軸に、少し深く掘り下げてみたい。
重要ポイント1: 美容×マニフェスト——『思えば美しくなれる』は本当か
Allureが7月13日に報じた記事が、じわじわと話題になっている。マニフェスト(引き寄せ)思考が美容領域に本格侵入し、『考え方を変えれば外見が変わる』と主張するインフルエンサーや自称エキスパートが急増しているというもの。
正直なところ、これはかなり複雑な現象だ。
一方では、マインドセットとスキンケアの関係——たとえばストレスとコルチゾールが肌荒れを引き起こすメカニズムや、睡眠の質と肌ターンオーバーの連動など——は科学的に示されている部分もある。ポジティブな自己認識が行動習慣を変え、結果的に肌の状態が改善する、というルートはゼロではない。
ただし問題は、そこから『念じれば毛穴が消える』『引き寄せでリップの形が変わる』という主張にすり替わっていくときだ。こうした言説はFDAや皮膚科学の文脈では根拠なし(要確認)であり、むしろ医療的ケアが必要な肌トラブルを放置させるリスクすらある。
SNSのアルゴリズムは『希望』を売るコンテンツを拡散する。視聴者が見たいものを見せ続ける構造の中で、科学的根拠のない美容論が急速に広まるのは、ある意味で必然だった。日本でも類似のコンテンツは既に流通しており、業界として丁寧にファクトと向き合うタイミングに来ていると個人的には感じる。
重要ポイント2: FlutterHabitがSeuphoraへ——SNS発ブランドのリテール戦略が変わった
累計1800万ペア以上を販売したDIYラッシュエクステブランド、FlutterHabit。これまではD2C・Amazon・TikTok Shopという純粋なデジタルチャネルで成長してきたブランドが、初の大型リテールパートナーとしてSeuphoraを選んだ。
これは単なる『店頭に並んだ』という話ではない。
ここ数年のトレンドとして、SNSで火がついたインディーズ美容ブランドがリアル店舗を持つことの意味が変化している。かつては『オンラインで成功したから次はリアル』という順番だったが、今は『リアル店頭がブランドの信頼性をオンラインに逆輸出する』という動きが鮮明になっている。Seuphoraに置かれているという事実が、TikTokのコメント欄での信頼証明になる時代だ。
FlutterHabitの親会社Performance Beauty Groupにとっても、スペシャルティビューティーリテールへの本格参入という意味で重要な一手。DIYラッシュというカテゴリー自体が、サロン離れ・コスパ意識の高まり・セルフビューティーの浸透という複数のトレンドを背景に持っており、日本市場でも同様の文脈が育ちつつある。
セルフラッシュ市場に関心のある方は、このSeuphoraでの棚展開がどんな消費者層を動かすか、2026年後半のデータが出てくるタイミングで注目してほしい(要確認)。
重要ポイント3: ニコール・キッドマンとウーブンシューズ——セレブトレンドの作られ方
ウィンブルドン2026、ニコール・キッドマンがRalph Laurenのウーブン(編み込み)シューズをメンズウェアインスパイアのコーデと合わせて登場した。WWDが即座に報じ、SNSで拡散。
個人的に面白いのは、ウーブンシューズ自体は新しい素材でも技術でもなく、職人的なクラフト感と通気性を持つクラシックなシルエットだという点だ。つまり『誰が履くか』がトレンドを作るという、ファッション業界の本質的なメカニズムがここでも動いている。
メンズウェアインスパイアドという方向性も見逃せない。ジェンダーレスなシルエット・オーバーサイズ・テーラードへの関心は2025年あたりから顕著で、2026年のウィンブルドンというドレスコードの厳しい場でもその流れが出てきたのは象徴的だと思う。
日本のファッション市場でも、カジュアルとフォーマルの境界線が溶けつつあるなかで、こういった『クラシック素材×現代的ジェンダー解釈』の組み合わせは一定の支持を得やすい。
クイックトピック: M&Sリニューアルとリキッドブロンザーの話
もう2つ、さらっと触れておきたい。
Marks & SpencerがロンドンのOxford Street東端にある旗艦店『Pantheon』を大幅改装した。ラグジュアリーな空気感と英国らしい温かみを掛け合わせた内装で、ビスポークサービスも導入。大型リテールが単なる商品陳列の場ではなく『体験の場』として再定義されている流れを、M&Sも追っている形だ。
それと、Makeup by MarioのSoftSculpt Bronzing & Shaping Serum。Allureのレビューによると『肌に溶け込むように馴染むリキッドブロンザーで、自然な血色感が出る』とのこと。セラム質感のブロンザーはスキンミニマリズムの文脈ともよく合う。複数のステップを省きながら血色とツヤを足したい、という需要に応えるアイテムで、今後類似商品が日本市場にも増えてくる予感がある。
- 出典: WWD – Marks & Spencer Pantheon Flagship
- 出典: Allure – Makeup by Mario SoftSculpt Bronzing Serum Review
まとめと今週のアクション
今週のニュースを並べると、美容・ファッション市場で起きていることの輪郭が少し見えてくる。
消費者は『自分でコントロールしたい』という欲求を強めている。DIYラッシュの成長も、マニフェスト美容の拡散も、その欲求の裏返しだ。ただ、自己表現の自由と、科学的根拠のない言説が混在する空間では、情報リテラシーがこれまで以上に問われる。
今週試してほしいこと、3つ。
- フォローしている美容インフルエンサーの発信に『根拠はあるか?』と一度立ち止まって見てみる
- セルフビューティーカテゴリー(ラッシュ・ネイル・ブロウ等)の市場動向を、自分のビジネスや購買行動に照らしてみる
- ウーブン素材やメンズウェアインスパイアドのシルエットを、今秋のワードローブに一つ取り入れる選択肢として検討してみる
美容とファッションの境界線は、思っている以上にぼやけてきている。その境界で何が起きているかを追い続けることが、来年のトレンドを先読みする一番の近道だと思っている。
このブログはFuture Sync Economy – 美容・ファッション編の週次レポートです。ポッドキャスト版もあわせてどうぞ。
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